かつての憧れ。男性の所有欲を刺激する白いアンティーク家具。

家具業界構造論

バロック、ロココ、新古典様式。手に入れられなかった憧れ。

———- このキャビネット、優雅という言葉がぴったりな佇まいですが、こういった女性的なデザインというか、装飾が華やかな家具は、リユースで次にお使いになる方もやはり女性が多いんですか?

岡田 :  それがね、案外そうでもないんですよ。僕の肌感覚だと、リユースでフランス製・イタリア製のクラシカルな家具をお求めになるのは、圧倒的に中高年かそれより上の「オジサマ」ですね。買い取りのご縁で販売をさせていただくこともままあるのですが、お届けにあがったときに女性で「これ、私ずっと欲しかったの」というテンションの方は限りなくゼロに近い。同じ家具でも、女性はいわゆる「中古」を敬遠される傾向があるのかもしれません。

———- たしかに。新品の安心感というか。

岡田 :  その点、男性は実利的で。例えば、若い頃にめちゃくちゃ憧れていた家具があって、でも家が狭かったり、金銭的な面で手を出せなかったとして。それが、今の年齢になってお引越しなどを機に、「当時○○万円で買ったこの家具がいくらいくらになるのかぁ……」と買い取りを経験して、はたと気づかれるんです。「もしかして憧れだったあの家具を、この機会にリユースで手にすることができるんじゃないか?」と。実際、30〜40年前に200万円くらいした家具が今なら定価の2割ほどでリユース市場に出るパターンもあるので、そこで所有欲にカチッと火が点くみたいな。

今なら叶えられそうな、「その家具のある空間を体感したい」という欲望。

———- あのときの夢を現実にできるわけですね。

岡田 :  例えばですが、新しい家を新品のロココ調の家具で揃えようとすると1000万円かかる。でも、それがリユースで200万円で揃えられるなら……とすると、その方たちにとっては十分「アリ」な選択なんですよ。家具としての実用性以上に、その家具のある空間に身を置きたい。

———- その差が、新品からは得られる(はずの)品質的な安心感……?

岡田 :  極端な話、中古のベッドに抵抗がある人は多いですが、どれだけ高級なところだとしてもホテルのベッドは不特定多数の人が寝てきています。「顔」が見えない。一方、僕らが買い取った家具は、査定や搬出の現場で、どんな場所でどんな人がどんな使いかたをされてきたかを含めて、家具の「顔」を把握しているので、倉庫で手入れしたのち、自信を持ってリユースに送り出しています。もはや価値観の域になるので、抵抗を抱えてらっしゃる方に「絶対に中古を買うべきです」とは言えませんが。

引越しで次の家には入らないので手離す? 処分? いや、もうひとつ。

———- 一般に、家庭のインテリアの決定権って女性にあるイメージなんですが、そうでもないんでしょうか。

岡田 :  そのあたりが価格帯や求められる方のキャラクターなど、アンティーク家具ゆえの特殊性な気がします。あとは、住み替えのタイミングでお伺いすることが多いので、次の家でのインテリアは男性に主導権を譲られるとかもあるのかもしれませんね。僕自身、20年前は新品の家具をメインに扱っていて、「中古」の家具なんて……と思っていたんです。でも、実際に始めてみたらあまりの需要の多さと密度に驚きました。

———- なるほど。言われてみれば、車は中古車のシステムがしっかり広まっています。

岡田 :  車だとイメージしやすいと思うんですけど、車を売るときって、近所のお店に出すか、スポーツカーならスポーツカー専門店に出すかで変わってきますよね。家具も同じなんです。この写真のキャビネットは、一戸建ての2階に置かれていたもので、高さは僕の背丈ほど、幅も2mはあるうえに、ガラスの棚板と扉なのでめちゃくちゃ重たくて。引越し先のお宅に入らないので手離されようとしていたのですが、リサイクルショップで2〜3軒断られたそうなんです。大きさ的にも重量的にも、分解できない=搬出できないということで。それで、業者経由で弊社に連絡が来まして。

———- どうやって対応されたんですか? 搬出できたから今ここにあるんですもんね。

岡田 :  結果から言うと、2階で分解して下ろして1階で再度組み立てて、搬出できました。ネジが隠し扉みたいなところにあって、ネジの形状も特殊だったのでちょっと手間取りましたが、それをひとつひとつ分解していって、無事に。車って、ほぼゼロ査定の引き取りか廃車かだけじゃないですか、手離すときの選択肢が。同じように、家具も「買い取り」という選択肢を広めていきたいと思っています。

(インタビュー:編集チーム)