「寄り添う」の具体。〜 看護師・整理収納アドバイザー:亀村あゆみさん 〜

目利きな対談、ガテンな対談

リラックスでは、家具買い取りのご縁などをきっかけに、引越しを承ることがあります。7~8年前から、施設への入居やご家族との同居に伴う80代・90代の方の引越し依頼をちらほら受けていましたが、ここ数年、顕著に増えている感がありました。お客さんが変わっていっている(高齢化している)なら、引越しのありかたも変わらないといけない。でも、具体的にどうしたらいいのか。模索しているときに出会ったのが、看護師と整理収納アドバイザー、生前整理アドバイザーの3つの視座を併せ持つ亀村あゆみさん(Kame Life Support Kobe)でした。


「高齢者大移動時代。丁寧にゆっくりと、だけではたどり着けない『寄り添う』引越し」(岡田)

岡田: 最近ほんとうに、引越しの依頼で高齢者の方が大移動している実感がありまして。

亀村(敬称略): もうすぐ日本の人口の30%が60歳以上になると言われていますもんね。

岡田: 引越しの体感としては、60代・70代より、80代・90代。お伺いして80歳だと「今日のお客さんはお若いな」と思うようになってきました。そのとき気になるのは、やっぱりお体のこと。時間なんぼかかってもええし、体調崩されたら途中でキャンセルになってもいいから、とにかく怪我をせず、体調に大事なく、心身すこやかに安心・安全に、次の環境(老人ホームや介護施設など)に身を移していただく。とにかく丁寧な、お客さんに寄り添った引越しの必要性を感じて、自分たちなりに取り組んできたんです。

亀村: 先日、はじめてご一緒させていただいたじゃないですか。それで私、びっくりして。こんなに丁寧な引越しをされているところがあるんやって。私は引越し経験が4回あるんですけど、パーッと荷出しされて、新居ではパーッと「これはどこですか?」って運び込まれる印象しかなくて。手際よく頼もしい一方で、あまりの効率のよさに気忙しいというか。

岡田: 一般的な引越しは、それでもいいと思うんです。ただ、お客さんが変わっていっている(高齢化している)以上、僕らの引越しのあり方も変わらなあかんと感じていて。お客さんに付いて体調や状況を汲みとるスタッフを専任でつけたり。普通の引越しだと寒い日でもドアを開けっぱなしで効率優先の作業をするところを、お客さんが風邪をひかないように荷物を運ぶたびにドアを開け閉めしたり。

亀村: すごく手間をかけられていますよね。

岡田: それでも、いろんなミスをするんですよ。例えば、荷入れが終わって撤収のご挨拶ってときに「最後に掃除機をかけて届けてちょうだいってお伝えしたのに、届いてない」と。スタッフに確認すると「処分と承った」と言う。言った言ってないの話は、少なくありません。あとは、「引越しまでに段ボールに詰めておく」とおっしゃっていたのに、当日伺うとほとんど進んでいないことも。

亀村: 年齢とともに、生理的な老化は避けられませんからね。今まで気丈だった方がやる気を失う、小さなことにこだわる、落ち込みやすくなる、過敏になる――感情のコントロールの難しさも、老化とともにどうしても出てくる症状なので。

岡田: まさにそこなんです。値段でもなくて、丁寧さだけでもなくて。もう一歩踏み込んで寄り添いたいと考えたときに、亀村さんがされている看護師の立場からの医学的なサポート、整理収納アドバイザーの視点での環境のつくりかたが、絶対に必要だと。

亀村: 嬉しいです。ちょうど、看護師の経験と整理収納・生前整理の知識を掛け合わせてご高齢の方をサポートする活動を始めたところだったので。

岡田: このあいだ亀村さんと組ませてもらって、僕、感動したんですよ。現場に伺ってまず、お話するだけじゃなくて「血圧を測りましょうか」って。そんな引越し屋、まずいないです。

亀村: あのときは、朝90だった血圧がお昼頃には120に上がってましたよね。朝6時から動いていたそうだし、午前中見ていたらあまり水分をとってらっしゃる様子でもなかった。年配の方は冬場の乾燥でも脱水症状になりやすいので、2時間に1回のペースで水分補給した方がいいんです。

岡田: 1日ご一緒させていただいて、これは僕らの心配が解消されるなって。僕らでは変化がわからないんですよ。ご自分で梱包されて、当日も打ち合わせのときと変わりなくしゃべってはったから。

亀村: ありがとうございます。家具やモノの配置にしても、長年、看護師として訪問介護の現場にいて、もどかしかったんです。例えば、30分訪問なのに、軟膏を探し回ってケアの時間が圧迫されてしまう。そこを整理収納アドバイザーの視点でモノの住所を決めると、看護師やヘルパーさんの探し物の時間が減って、本来のケアを充実させられます。ほかには、麻痺などがある場合に、介護ベッドをその方の日常生活動作(ADL)を維持しやすい向きに置くとか。

岡田: 「ここに介護ベッドを置くから、ソファを買い取ってほしい」という依頼、よく承るんですよ。その時点で整理収納の視点があると、その後の環境が、介護する・受ける側の双方にストレスないものになりそうですね。

亀村: ベッドを入れるのは介護保険が使えるけれど、そのための環境の整え、モノの整理は介護保険適用外なんです。これからケアマネジャーさんなどと連携していって、フォーマルな介護保険でまかなえない部分を補う——フォーマルとインフォーマルの足がかりになる存在になりたくて。

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「思い出のものにはパワーが宿っている。だから、環境が変わるときこそ『思い出』を携えられるように」 >>>

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