「寄り添う」の具体。〜 看護師・整理収納アドバイザー:亀村あゆみさん 〜

目利きな対談、ガテンな対談

(前のページ)
<<<「高齢者大移動時代。丁寧にゆっくりと、だけではたどり着けない『寄り添う』引越し」

「思い出のものにはパワーが宿っている。だから、環境が変わるときこそ『思い出』を携えられるように」(亀村さん)

亀村: 施設に移る前の持ちものの整理。片付けや整理って、若いひとはプロに頼んでもいいという意識をお持ちだけれど、高齢世代は、家事の一環だからそんなことを他人に頼むなんて……と心理的ハードルが高いひとが多い。一方、施設のワンルームは、家よりもずっと狭いことがほとんどです。どうしてもモノを減らさないといけない場面で、寄り添いたい。環境が変わるときに本領を発揮する、思い出のモノを残す動線づくりというか。

岡田: 僕がすごいなと思ったのが、洋服。いくつものタンスにめいっぱい詰まった洋服も、施設のクローゼットには入りきらない。10着あるところ持っていけるのは1着という状況で、僕らだと「どうしましょう?」って急かしてしまいがちなんです。そこをあのとき、亀村さんは「この素材のものの中ではどれにしましょう?」「この色のものは?」ってお客さんが選びやすいように基準を出していて。

亀村: それでも迷われる方には、「この素材とこの素材は静電気が起こりやすいので」と提案することもあります。

岡田: そういえば、現場で僕、亀村さんに叱られましたよね。お客さんに「これゴミでいいですか? 捨てておきましょうか?」ってうっかり聞いてしまって。

亀村: あはは、そうでしたね。他人にはわからない思い出が詰まった品――ほんまは持っていきたいけど、泣く泣く手放すものかもしれませんから。捨てるにはしのびないけど、自分では使わないものってあるじゃないですか。それを手放すきっかけに「交際ボックス」を用意するのも一つの手なんです。誰かが使ってくれるかも、喜んでくれるかもと思うと気持ちが軽くなって手放せる。

岡田: なるほど、心が動くんだ。

亀村: あと、「思い出ボックス」もあるといいと思います。はたから見たら何の価値も感じないもの――例えば、もうインクはでないけど大切なひとからプレゼントされたペン――だけど、本人にとっては大事なもの。それを迷いなく置いておけるスペース。引越しって準備段階からずっと気持ちが張っているので、終わるとどっと疲れますよね。しかも、長年暮らした家を離れて、まったく違う環境で夜を迎える状況。そんなとき、思い出のものを見ると、多少なりとも不安がやわらぐんじゃないでしょうか。

亀村: 生前整理アドバイザーの勉強で、思い出ボックスは遺品になるとも学びました。故人が大切に思っていたものに接することで、遺されたご家族のケアにもなると。あとは、認知症の人の認識を呼び起こすフックにも。認知症が進むと前頭葉が損傷して暴言が増える場合もあるんですが、そのときに介護職とご本人の仲をとりもつコミュニケーションツールになり得るんです。認知症でなくても、入居の段で、会話をひろげるきっかけ、信頼関係を築く手助けにもなると思います。おしゃべりって、それだけで嚥下のための口腔の筋肉トレーニングになるんですよ。

岡田: いいなぁ、思い出ボックス!「思い出ボックス」「交際ボックス」という言いかたひとつ、役割ひとつで、ご本人もまわりも好転していくんですね。

 

現場での亀村さんの動作やお声がけをめちゃくちゃ勉強しているリラックス店長・光永

(2019年11月対談)

看護師plus生前整理アドバイザー・整理収納アドバイザー
亀村あゆみ(Kame Life Support Kobe

ホームページ

1

2