北野異人館で出会う、中板のない飾り棚、1辺約100センチメートルの花台。

“買い取る”だけじゃないレポート


僕は買取にすごく興味があります。買いたい買いたい買いたい!というくらい。うっかりすると、売る方がすこし無頓着になってしまうくらい。
そんなふうに買い取り屋として生きていると、「こちらの家具は当時ロイズアンティークスで買われましたね」「セブンハートで購入なさいましたね」など、鑑定時、ほとんど見た瞬間にわかるようになってきます。
それでも、見たことのない家具を見る機会がまだまだあるんです。今回伺った北野異人館。“家具屋さんに売っていない”、“日本に売っていない”、そんな家具がありました。

中に板のない飾り棚。

飾り棚は初めて見たくらい立派な家具でした。じっくり査定をはじめたところ、「あれ、飾り棚なのに、棚板がない」と気づきます。中に飾っているコレクションを引きたてる役目の収納家具を『飾り棚』といいますが、その棚板がないのです。

きっと、家具を作った家具職人ははじめから、この豪華絢爛な家具を引きたて役にする気はさらさらなかったのでしょう。「棚板なんて不要!この素晴らしい家具こそがリビングの顔であり主役である!」と言わんばかりの気持ちで当時、家具を作ったのだと思います。それに気づいた瞬間、100年以上前のこの家具職人の気概に心底感動しました。

ちなみに、表面の白っぽいものは貝殻。螺鈿細工というものです。そしてこちらの飾り棚はこの細工がすごく細かい。扉とその前の板の間に立体的な装飾が何重にもあるのですが、こういう細工は手間が掛かるので、とても珍しいです。この飾り棚を1つ作るだけできっと10人くらいのプロが集まっている。紫檀の塗装をする人、貝殻を貼る人、立体的に家具を作っていく人、何人もの手がかかっています。家具というより、もはや工芸品のような雰囲気でした。

1辺約100センチメートルの花台。

一見、大きく立派なダイニングテーブル。しかし実は違いました。テーブルの下に装飾が沢山あり、人の脚が入りません。入れようとすると、膝が装飾にがちんと当たります。

では一体何なのか?この重鎮な家具の正体は、“花瓶を置く花台”でした。花を置くためだけの、1辺が100センチもあるような台なんて、通常の家に置くことはないでしょう。だけれどここ、北野異人館はもともと中国領事館だったこともあり、こういった唐木家具と呼ばれる高級な木材で出来た家具が顔を並べていたのです。

由緒の橋渡しをする。

さて、今回の飾り棚と花台は買取後、プーアル茶専門店をオープンする方に購入していただきました。
烏龍茶やプーアル茶をだすようなお店を作ろうと考えたとき、手ごろな価格の家具では、空間に家具が負けてしまう気がします。どうやって、その空間に力や存在感を持たせるか。おそらく僕の仕事のひとつは、北野異人館で出会ったような手間や時間がかけられた素敵な家具を譲っていただき、そんな由緒ある家具をさがしている人のもとに届ける……、こういった橋渡しなのかもなと思っています。